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最高裁判所第三小法廷 平成4年(行ツ)64号 判決 1992年11月20日

高松市高松六〇六番地三

上告人

岡岩雄

右訴訟代理人弁護士

水田耕一

同弁理士

長谷川隆一

香川県坂出市宮下町五番二六号

被上告人

株式会社 大和製作所

右代表者代表取締役

藤井薫

右訴訟代理人弁護士

籠池宗平

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第四六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年一二月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水田耕一、同長谷川隆一の上告理由について

本件審判手続においても、本件考案の真の考案者が何びとであるかにつき当事者間に応酬があり、この点をめぐって審理が行われたことはいうまでもなく、ただ審決は、その判断理由からして、真の考案者が何びとであるかについての明示の判断をしなかったものにすぎない。審判手続における右の経緯に照らし、この点の違法をいう所論は、その実質において前提を欠くものというほかはない。その余の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、すべて採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)

(平成四年(行ツ)第六四号 上告人 岡岩雄)

上告代理人水田耕一、同長谷川隆一の上告理由

第一、上告理由第一点

原判決には、実用新案法所定の審決取消訴訟における審理・判断の対象事項につき、法律の解釈・適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破毀されるべきである。

一、実用新案法第三七条第一項第四号は、「その実用新案登録が考案者でない者であってその考案について実用新案登録を受ける権利を承継しないものの実用新案登録出願に対してされたとき。」と規定している。

実用新案法は、「考案者」について特に定義を置いていないが、右の規定にいう「考案者」が、同法第三条第一項柱書にいう「産業上利用することができる考案であって物品の形状、構造又は組合せに係るものをした者」を指すことは、疑問の余地のないところであると思料する。

「考案」については、同法第二条第一項において定義が置かれ、「『考案』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。」とされている。

実用新案法の右の各規定を前提にして考えるとき、実用新案登録出願人が同法第三七条第一項第四号に定める「考案者でない者」に該当することを認定するためには、物品の形状、構造又は組合せに係る自然法則を利用した技術的思想の創作であって、産業上利用することができるものをした者でないことを認定しなければならないようにみえる。

もしそうだとすれば、右の認定をするためには、当該出願人のした「考案」が、「物品の形状、構造又は組合せに係るもの」でないこと、「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないこと、又は「産業上利用することができるもの」でないことのいずれかの認定をすることになる。

しかしながら、特許法第一二三条第一項第四号に規定する要件の存否の認定にあたって、右のように認定を進めるのは、制度の趣旨を誤ることになる。

なぜなら、もし、当該出願人のした「考案」が、「自然法則を利用した技術思想の創作」でなければ、それは、実用新案法に規定する「考案」に該当せず、また「物品の形状、構造又は組合せに係るもの」でないか、もしくは「産業上利用することができるもの」でなければ、実用新案登録を受ける要件を満たさないことになるので、いずれも実用新案法第三七条第一項第一号の場合に該当する。したがって、その実用新案登録は、同条同項同号によって無効とされるので、あえて同条同項第四号の規定を必要とはしないことになるからである。

二、実用新案法が第三七条第一項第一号の規定のほかに第四号の規定を設けたのは、そもそも当該登録に係る考案について、同条第一項第一号に係る無効事由がなくても、なお第四号によって登録を無効にすることができるとの前提に立つものである。

したがって、第四号に該当するか否かは、当該登録に係る考案が実用新案法所定の登録要件を満たしていることを前提にした上で、その考案をした者が誰であるかを探索し、当該実用新案登録出願をした者が、右の探索によって判明した考案者その人であるか、又はそれ以外の者であるか、もし後者である場合には、考案者から実用新案登録を受ける権利を承継しているか否かを究明して決せられるものと考えなければならないのである。

すなわち、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第一六条第一項第三号において、「登録力……登録ヲ受クルノ権利ヲ冒認シタル者ノ為ニ為サレタルトキ」と規定されていたのと、規定の趣旨は現行法上も全く同一であって、当該実用新案登録出願をした出願人が、当該考案の考案者の有する登録を受ける権利を、あたかも自己の有する権利であるかの如く行使して実用新案登録を受けたものであるか否かが、まさに実用新案法第三七条第一項第四号の問題でなければならないのである。

右の見地に立ってみるとき、同号にいう「考案者でない者」とは、「真実の考案者である特定人以外の者」の意味に、これを解するのが正しいことが知られるのである。

三、以上にみたところから明らかなように、実用新案法第三七条第一項第四号に該当するとするためには、まず真実の考案者が誰であるかを特定しなければならない。

けだしそうでなければ、出願人が、「考案者でない者」であることが確定せず、したがってまた誰の権利を勝手に行使したものであるかの認定もできず、結局同法第三七条第一項第四号該当性を明らかにすることができないからである。

それゆえ、同法第三七条第一項第四号の無効事由の存在を主張して、実用新案登録無効審判の請求をする者は、当該実用新案登録に係る考案の考案をした者(真実の考案者)が誰であるかを主張しなければならず、又は特許庁審判官において、職権をもって真実の考案者を探知しなければならないものと解すべきである。

右の点は、前記旧実用新案法の規定上は明白であるのに対し、現行法上は、規定の表現上やや明確を欠くうらみがあるが、規定の趣旨から考えれば、当然右のように解しなければならないことは明白である。

四、本件審判請求は、

<1>実用新案法第三七条第一項第三号(同法第五条第三項及び第四項違反)

<2>同法第三七条第一項第一号(同法第三条第一項柱書違反)

<3>同法第三七条第一項第一号(同法第三条第一項第一号又は第二号違反)

<4>同法第三七条第一項第一号(同法第三条第二項違反)

<5>同法第三七条第一項第四号

の各規定に基づく五つの無効事由を挙げて、本件実用新案登録の無効を主張しているものであるが、右の<5>の無効事由に関する請求人の主張は、本件審決によれば、次のとおりである。

「本件出願は、考案者でないものであって、その権利を承継しないものの実用新案登録出願であるので、実用新案法第三七条第一項第四号の規定により無効にされるべきである。」(甲第一号証五頁八行~一一行)

しかして、審判請求人の右の主張に対する本件審決の認定判断は、次のとおりである。

「本件実用新案登録が冒認出願に対してなされたものであるとの請求人の主張は、本件考案が甲第五号証に示す装置と同一であること、または、本件考案が同甲号証に示す装置に用いられていることを前提として成り立つものである。

そこで、甲第五号証を精査すると、甲第五号証には、上下チエンでエビを挟持し、長方形型のボイル室と水冷室内を移行中にエビをボイルして冷却する自動ボイルエビの成型装置は記載されているが、本件考案の必須の構成要件である『ボイル室とこれに仕切板を介して連設する水冷室との長手方向側面に噴射孔を対向に設けた蒸気筒及び噴水孔を対向的に設けた水冷筒を夫々数組づつ対設し』た構成が記載されておらず、かつ示唆もされていない。

よって、本件考案が甲第五号証に示す装置と同一であるとは認められないし、同甲号証に示す装置が本件考案を用いているとも認められないので、請求人の主張は前提において既にその根拠を欠くものというほかはない。

したがって、本件実用新案登録が冒認出願に対してなされたものであるとは認められない。」(甲第一号証一二頁五行~一三頁六行)

右に掲げたものを除いては、本件審決上、実用新案法第三七条第一項第四号の無効事由に関する言及はない。

これによってみれば、特許庁の審判手続においては、本件実用新案登録に係る考案(以下「本件考案」という。)の考案をした者(真実の考案者)が誰であるかにつき、請求人から明確な主張はなく、審判官の職権による探知も行われていないことが知られるのである。なお、審判請求人からは、自己が考案者である旨の主張もなされていないことは、右の審決の説示に照らして明らかである。

五、最高裁判所昭和五一年三月一〇日大法廷判決(民集三〇巻二号七九頁。以下「大法廷判決」という。)は、旧特許法(大正一○年法律第九六号。)に関するものであるが、次のように判示している。

「法は、特許出願に関する行政処分、すなわち特許又は拒絶査定の処分が誤ってされた場合におけるその是正手続については、一般の行政処分の場合とは異なり、常に専門的知識経験を有する審判官による審判及び抗告審判(査定については抗告審判のみ)の手続の経由を要求するとともに、取消の訴は、原処分である特許又は拒絶査定の処分に対してではなく、抗告審判の審決に対してのみこれを認め、右訴訟においては、専ら右審決の適法違法のみを争わせ、特許又は拒絶査定の適否は、抗告審判の審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめていることが知られるのである。

(中略)

右に述べたような、法が定めた特許に関する処分に対する不服制度及び審判手続の構造と性格に照らすときは、特許無効の抗告審判の審決に対する取消の訴においてその判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、右訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることを許さないとするのが法の趣旨であると解すべきである。」

右の判示は、専門的知識経験を有する審判官の見解表明を経た上で、裁判所が司法上の判断を下すのが、誤りのない結論を導くことができるとの公益上の目的と、当事者に前審判断経由の利益と類似の利益を保障するという私益上の目的との二つを考慮したことに基づくものと解せられる。

また、大法廷判決は、右の判示に続けて、次のように判示している。

「そこで、進んで右にいう無効原因の特定について考えるのに、法五七条一項各号は、特許の無効原因を抽象的に列記しているが、そこに掲げられている各事由は、いずれも特許の無効原因をなすものとしてその性質及び内容を異にするものであるから、そのそれぞれが別個独立の無効原因となるべきものと解するのが相当であるし、更にまた、同条同項一号の場合についても、そこに掲げられている各規定違反は、それぞれその性質及び内容を異にするから、これまた、各規定違反ごとに無効原因が異なると解すべきである。しかしながら、無効原因を単に右のような該当条項ないしは違反規定のみによって抽象的に特定することで足りるかどうかは、特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、特に法一一七条が、前記のように、確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によって限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定されなければならない。

思うに、特許の基本的要件は、法一条に定める『新規ナル工業的発明』に該当することであり、特許すべきかどうか、又は特許が無効かどうかについて最も多く問題になるのも、右法条に適合するかどうか、なかんずく当該発明が『新規ナル』ものであるかどうかであるところ、法四条は、右にいう発明の『新規』とは、『特許出願前国内ニ於テ公然知ラレ又ハ公然用ヰラレタルモノ』又は『特許出願前国内ニ頒布セラレタル刊行物ニ容易ニ実施スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ記載セラレタルモノ』に該当しないことをいうと規定している。すなわち、ある発明が法にいう『新規ナル』もの(以下『新規性』という。)に当たるかどうかは、常に、その当時における『公然知ラレ又ハ公然用ヰラレタルモノ』又は公知刊行物に記載されたもの(以下『公知事実』という。)との対比においてこれを検討、判断すべきものとされているのである。ところが、このような公知事実は、広範多岐にわたって存在し、問題の発明との関連において対比されるべき公知事実をもれなく探知することは極めて困難であるのみならず、このような関連性を有する公知事実が存する場合においても、そこに示されている技術内容は種々様々であるから、新規性の有無も、これらの公知事実ごとに、各別に問題の発明と対比して検討し、逐一判断を施さなければならないのである。法が前述のような独特の構造を有する審査、無効審判及び抗告審判の制度と手続を定めたのは、発明の新規性の判断のもつ右のような困難と特殊性の考慮に基づくものと考えられるのであり、前記法一一七条の規定も、発明の新規性の有無が証拠として引用された特定の公知事実に示される具体的な技術内容との対比において個別的に判断されざるをえないことの反映として、その趣旨を理解することができるのである。そうであるとすれば、無効審判における判断の対象となるべき無効原因もまた、具体的に特定されたそれであることを要し、たとえ同じく発明の新規性に関するものであっても、例えば、特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の理由をなすものと解さなければならない。」

大法廷判決は、右掲の如く、旧特許法第五七条第一項各号に定める無効事由は、それぞれ別個の無効原因となるばかりでなく、同条同項第一項の場合については、そこに掲げられている各規定違反ごとに無効原因が異なるものとし、かつ「無効原因を単に右のような該当条項ないしは違反規定のみによって抽象的に特定することで足りるかどうか」については、特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、また旧特許法第一一七条が確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によって限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定すべきものとしているのである。

大法廷判決は、当該事案が、旧特許法にいう発明の新規性に関するものであったところから、発明の新規性の有無については、特定の公知事実ごとに別個の無効原因を構成する旨の見解を示しているのであるが、右の判示が、発明の新規性以外の無効事由については、該当条項ないしは違反規定のみによって、無効原因を特定してもよいとする考え方を示すものでないことは、前掲の判文に照らして明らかである。

すなわち、発明新規性の有無に関する無効事由についての大法廷判決の右見解は、「特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、特に法一一七条が、前記のように確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によって限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定されなければならない。」とする判断作業の一例を示したものにすぎないのであって、他の無効事由についても、同様の配慮の下に無効原因を個別化すべきことを示唆しているものと理解されるのである。

しかして、大法廷判決は、発明の新規性の有無以外の場合につき、無効原因を如何に個別化すべきかに関する基準を示していないが、「特許無効の抗告審判の審決に対する取消の訴においてその違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、右訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることを許さないとするのが法の趣旨であると解すべきである。」とする前掲の判示に照らすと、大法廷判決は、無効原因につき審理・判断を個別になしうる限り、これを個別化して、審判による審理・判断を先行させるべきであるとの見解をとっているものと思われるのである。

大法廷判決が発明の新規性の有無につき、特定の公知事実ごとに無効原因を個別化すべきものとしているのは、特定の公知事実ごとに個別に審理・判断をなしうる点を考慮したものとみることができる。

六、その後の最高裁判所判決をみると、実用新案法第三七条第一項第三号に規定する同法第五条第三項又は第四項(旧規定。現行第五条第四項又は第五項に相当。以下旧規定による。)違反の無効事由に関し、無効原因を如何に個別化すべきかについての見解が示されている。

原審の東京高等裁判所昭和六二年六月三〇日第六民事部判決(昭和五八年(行ケ)第六九号)の判示は、次のとおりである。

「願書に添付すべき明細書の考案の詳細な説明における考案の目的、構成及び効果の記載は、当業者が容易にその実施をすることができるということを基準とすべきものであるから(実用新案法第五条第三項)、考案の目的、構成及び効果のいずれかにおいて記載内容が不十分、不明瞭であるとか、記載内容が前後矛盾し、一貫性を欠き不確定であるなどして、当業者が考案を正確に理解することができず、このために考案を実施することができないような場合には、明細書の考案の詳細な説明は右各項の要件を満たさず、ひいて同条第四項の規定の要件を満たさないという瑕疵を帯びることがあるというべきである。そして、実用新案登録が実用新案法第五条第三項及び第四項の規定の要件を満たしていない実用新案登録出願に対してなされたものに該当するときは、その実用新案登録を無効にすることについて審判を請求することができるが(同法三七条第一項第三号)、考案の構成を開示する明細書の実用新案登録請求の範囲の記載事項は複数の技術的手段から成り、考案の詳細な説明における考案の目的、構成及び効果の記載も、これらの技術的手段の個々についてそれがどのような働きをするかを説明するとともに、それが相互にどのような関連をもって考案の目的を達成するために作用しているか、また、それらの技術的手段の相互関連に基づいてどのような具体的効果が生じるかを開示する多様な内容となるのが通常であるから、同法第五条第三項及び第四項違反を理由に登録無効審判を請求する者は明細書の記載のどの部分にいかなる態様の不備(要件の不充足)があるかを特定具体的に主張しなければならないのであり、したがって、甲の記載不備を主張して登録無効審判を請求した請求人が審決取消訴訟において乙の記載不備を主張して審決の違法を攻撃することは、乙の記載不備が甲の記載不備に実質上包含される関係にあるなどの事情がない限り、審判手続において主張判断を経ていない事項に基づき審決の違法をいうことに帰し、許されないものというべきである。」

右の東京高裁判決の判示に照らすと、同判決は、「明細書の記載のどの部分にいかなる態様の不備(要件の不充足)があるか」ごとに、個別に審理・判断を行うことができるとの前提に立ち、そのように審理・判断の個別化が可能な記載不備ごとに独立の無効原因になるとの見解を示しているものとみることができる。

最高裁判所昭和六三年三月四日第二小法廷判決(昭和六二年(行ツ)第一〇〇号)は、「所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らして是認するに足り、その過程に所論の違法はない。」との判断を示し、前記東京高裁判決の見解を支持した。

これによって、実用新案法第三七条第一項第三号に規定する同法第五条第三項又は第四項違反の場合に関する無効原因の個別かの基準が明らかにされたわけである。

七、実用新案法第三七条第一項第四号あるいは同旨の規定である特許法第一二三条第一項第四号の場合について、無効原因を如何に個別かすべきかについては、その基準を示す学説・判例が見当たらない。

しかしながら、「単に右の該当法条(すなわち実用新案法第三七条第一項第四号)のみによって無効原因を抽象的に特定することで足りるかどうか」は、大法廷判決の判示する如く、「特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、特に法一一七条が、前記のように、確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によって限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定されなければならない。」ものなのである。

実用新案法第三七条第一項第四号の規定する無効事由の存否を認定判断するにあたって、真実の考案者、すなわち実用新案登録を受ける権利を有する者が誰であるかを特定する必要があることは、先に述べたとおりである。

されば、同号所定の無効事由は、審判請求人から、真実の考案者として主張され、または審判官の職権探知により真実の考案者として指摘された者ごとに、無効原因を個別化することができるものと解すべきである。

けだし、甲を真実の考案者と主張する場合と、乙を真実の考案者と主張する場合とでは、右各主張に対する審理・判断を個別にすることが可能だからである。

したがって、審判請求人が、審判手続において甲を真実の考案者として実用新案法第三七条第一項第四号の主張をしたが、審決でその主張が認められなかった場合、審決取消訴訟において、乙を真実の考案者として同号の主張をすることは、審判手続において審理・判断を経ていない事項に基づき審決の違法をいうことになるので許されないものといわなければならないのである。

八、原審において、本件審判請求人たる被上告人は、本件審決の取消事由として、本件実用新案登録に係る考案をした者は被上告人代表者の藤井薫個人であり、上告人は藤井に断りなく右考案の実用新案登録出願をした旨主張し、原判決は、右被上告人の主張を認めて、本件実用新案登録に実用新案法第三七条第一項第四号の無効事由がある旨認定判断し、本件審決を取り消したものであることは、原判決の判文上明白である。

しかしながら、本件審判手続においては、誰が真実の考案者であるかについて、審判請求人による主張も、また審判官の職権探知による指摘もなかったものであるから、審決取消訴訟において被上告人が、真実の考案者を被上告人代表者藤井薫個人であるとし、上告人が、右藤井の実用新案登録を受ける権利を勝手に行使したことを理由として、本件審決が取り消されるべき旨主張することは、審判手続において審理・判断を経ていない事項に基づき審決の違法をいうことに帰し、許されないところである。

しかるに、原判決は、被上告人の右主張を認めて、本件審決を取り消したものであるから、原判決には、実用新案法所定の審決取消訴訟における審理・判断の対象事項につき法律の解釈・適用を誤った違法があることが明らかである。

しかして、右の違法は、判決の結論に影響するものであることが明白であるから、原判決は破毀を免れない。

第二、上告理由第二点

原判決には、実用新案法第三七条第一項第四号所定の審判請求に関する請求人の資格につき、法律の解釈・適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破毀されるべきである。

一、本件審判請求をした者は、被上告人である株式会社大和製作所である。

しかして、原判決が認定している本件実用新案登録に係る考案の考案者は、被上告人代表者藤井薫個人である。

二、実用新案法第三七条第一項は、実用新案登録を無効にすべき事由を定めるのみで、それらの無効事由に基づき無効審判を請求することのできる請求人の資格については、特に限定するところがない。

三、しかしながら、同法同条同項第四号に定める無効事由については、考案者(真実の考案者)又は考案者から実用新案登録を受ける権利を承継した者に限り、無効審判請求をなしうるものと解すべきである。

けだし、もし然らずして、考案者又は右述の承継人以外の者にも無効審判請求を認めるものとするときは、考案者又は右述の承継人の権利が不当に害されることとなるおそれがあるからである。

たとえば、いま甲なる請求人が、考案者は乙であり、したがって出願人である丙は考案者でない者であるとして、無効審判請求をした場合を考えてみよう。

審決によって右の請求が排斥され、審決が確定した場合、実用新案法第四一条によって準用される特許法第一六七条の規定により、考案者が乙であり、したがって出願人である丙は考案者でないとの事由により無効審判を請求することは、新たな証拠に基づかない限り、何人にも不可能となる。

右の結果は、乙自身の有する当該審判請求をなすべき利益を、乙自身の関与なくして喪失させるという不当な結果をもたらすことは明らかである。

四、そもそも、実用新案法第三七条第一項各号に定める無効事由は、第四号に定めるものを除いては、公益上の目的ないし一般第三者の利益を保護する目的をもって定められているのに対し、第四号の無効事由は考案者又は考案者から実用新案登録を受ける権利を承継した者の利益、すなわち特定人の私益を保護するために設けられているとみられるものである。

したがって、第四号の無効事由に関する限り、考案者又は右述の承継人以外の者にまで、無効審判請求を認めることは、その実益に乏しく、かつ右の無効事由が設けられた趣旨にもそぐわないものというべきである。

しかも、考案者及び右述の承継人以外の者に、同号の無効事由による無効審判請求を認めるときは、前述の如く、実用新案法第四一条の準用する特許法第一六七条の適用による弊害も考えられるところであるから、同法第三七条第一項第四号所定の無効事由に基づく無効審判請求については、請求人の資格が、当該実用新案登録に係る考案の考案者又は考案者から実用新案登録を受ける権利を承継した者に限定されるとの解釈をとるべきである。

五、しかるに、原判決は、本件無効審判請求につき、請求人の資格が右述の如く限定されるとの解釈をとらず、原判決の認定した考案者とは異なる者からの請求に係る本件無効審判請求を認容する判断を示したものであるから、原判決には、実用新案法第三七条第一項第四号所定の審判請求に関する請求人の資格につき、法律の解釈・適用を誤った違法があることが明らかである。

しかして、右の違法は、判決の結論に影響するものであることが明白であるから、原判決は破毀を免れない。

以上

(添付書類省略)

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